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グッドパッチのClaude Code全社導入

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「年額300万円払っていたSaaSが、朝からClaude Codeに向かっただけで、1日で完成してしまった」。 上場デザイン会社グッドパッチ社長の土屋尚史氏は、2026年2月11日の祝日、こう気づいた瞬間、「終わったな」と覚悟した。 そこから社員約200名へClaude Codeを使ったアプリケーションを制作する指示を出すことを即決。(この詳細は土屋さんのX記事をご参照) 繁忙期の3月、トップダウンの号令一つで、コーディング経験のない約60名の非エンジニアも含め「自作アプリのデプロイ」を完遂した。 デザイン会社が見せた、上場企業のAIエージェント突入劇を聞いた。 詳細はYouTube(Claude Code全社導入の裏側!上場デザイン会社Goodpatchの土屋社長に直撃インタビュー)でも深堀り きっかけは「雨の祝日、1日だけ空いた朝」だった いけとも:グッドパッチさんは、土屋さんが「社長として号令をかけることはあまりない」とおっしゃっていた会社ですよね。 それが今回、社員にClaude Codeを配って、「一人一つアプリを作ってデプロイしろ」とトップダウンでやらせた。 まず、なぜそこまでやろうと思ったのか。 土屋:AIは数年間、社内で一番大きなトピックではあったんです。 最初はChatGPTを触るところから始まって、去年の夏はバイブコーディングの勉強会もやりました。 その時に自分でClaude Codeを触ってアプリを作ろうとしたんですけど、1日ではデプロイまでいかなかった。 「非エンジニアにはまだ早いな」と、当時は感じたんですよね。 いけとも:それが今年、何かが変わった。 土屋:決定打は、2026年2月11日の建国記念の日でした。 雨で予定が流れて、1日丸々空いたんですよ。朝一でClaude Codeを開いて、社内で年額300万円払っていたあるSaaSプロダクトを、「自分で作れるか」試してみた。 いけとも:年額300万円のSaaSを、ですか。 土屋:それが、1日で完成してしまったんです。 しかも、遜色ないぐらいのクオリティで。 「ナイス・トゥ・ハブ」レベルじゃなく、実際に今もグッドパッチの中で毎日使われている。 いけとも:衝撃だったわけですね。 土屋:正直、「終わったな」と思いました。 それ以降、僕自身が本当に取り憑かれたように毎日Claude Codeを触って、2ヶ月でもう40本ぐらいアプリを作っていますね。 自分用のパーソナルAIエージェントも組んで、仕事をどんどん自動化しています。 インターネットとスマホに次ぐ、第3の「変わり目」 いけとも:40本はすごい。個人ユースで突き抜けた結果、会社への号令になった。 土屋:僕らが生きてきた中で、インターネットの登場とスマートフォンの登場があった。 その次に来るのが、間違いなくこれだと思ったんです。 自分たちの仕事にも直結してくる変化なので、「全員にこの感覚を味わわせないと、時代に取り残される」と。 いけとも:危機感がセットだったんですね。 土屋:「Claude Code、楽しいぞ」と最初は言ったんですけど、同時にかなりの危機感もあった。 しかもClaude Codeって、非エンジニアにとっては始めるまでのハードルが本当に高いんですよ。 だから、トップダウンでやらせないと一生やらない人が出る。これはまずいと。 いけとも:それで3月頭の全社会議で、「全員1アプリをデプロイまでやれ」と宣言した。 土屋:そうです。「ウェブサイトを作ってみました」「プロトタイプを作ってみました」ではなく、データベースも絡めて、ちゃんと動くウェブアプリケーションとしてデプロイする。 それを事業部門のメンバー全員にやってくれ、と。 号令前、Claude Codeを触っていた社員は「1割未満」 いけとも:グッドパッチさんはデザイナーもエンジニアもいる、ITリテラシーの高い会社ですよね。 それでも全員となると、自発的にはなかなか至らなかった。 土屋:各々の危機感って、まちまちなんですよ。 Claude Codeを触っているメンバーもいたけれど、3月頭の時点では全体の1割もいなかったと思います。 いけとも:200人を動かすのって、コストもかかるじゃないですか。 具体的にはどんなルール設計をしたんですか。 土屋:顧客情報とかセキュリティはセンシティブなので、そこに触れるようなAPI利用は一旦控えてもらった。 個人が自分の課題を解決するために作りたいアプリケーションに限定しましたね。 いけとも:ログインまわりは。 土屋:うちはOktaを入れているので、Googleの認証を経由する形でログインさせる。 入り口の段階では、かなり縛りました。 そのうえでセキュリティのルールを社内で作って、周知した上で進めています。 いけとも:ルール自体は、エンジニアや専門チームと作った感じですか。 土屋:AIトランスフォーメーション、いわゆるAXのオーナーチームが社内にあって、そこが主体になってルール設計もアカウント管理も進めました。 残り1週間で100人未提出。社長の「本気の詰め」が始まった いけとも:3月って、我々の業界は繁忙期ですよね。 動きにくい人も出るのでは。 土屋:そこはメンバーに申し訳ないと思っていながらやりましたね。ただ、やってしまえば時間はかからないんですよ。やるまでのハードルが高いだけで。 うちのような新しいものに抵抗がない組織でも、「ラガード」は出るんですよ、残念ながら。 いけとも:内発的動機が高い層が最初に動く。 土屋:そうですね。好奇心、探究心が高い人たちは、3月前半にはもう終わらせているんです。 動きの速さで、かなり可視化されましたね。 いけとも:逆に、それ以外の層は。 土屋:半分以上はなかなかやらない。 当然、プロジェクトの事情もあるので全員がやる気ないわけではないですが、残り1週間になった時点で100人以上が未完了でした。 対象部門の社員の半分以上ですね。 いけとも:半分。そこから、どう動かしたんですか。 土屋:ここからが、過去のグッドパッチになかったレベルのマイクロマネジメントです。 今回Claude Codeを使って何を作ったか、どうだったかをドキュメントツール「esa」に投稿してもらうことにしていたんですが、そのesaの投稿をClaude Codeで毎日9時に自動で取得。 カテゴリ分類して、裏側では「書いた人・書いていない人」を自動チェックしていたんです。 いけとも:仕組み自体も、Claude Codeで土屋さんが作った。 土屋:全部そうです。 で、まずは僕が日々つぶやいている社内Slackの「#times_ceo」チャンネルで「書いていない人、俺全部分かっているからね」とジャブを打って。 残り1週間になってからは、Slackのマネージャーチャンネルに毎日「この人とこの人が未提出です」と名前を出し始めた。 しかも、その中に管理職がいる。 いけとも:メンバーにやれと言ってマネージャーがやらないのは、許されませんよね。 土屋:まさにそれを突きつけました。 「過去こんなマイクロマネジメントはやったことない」というくらい本気で詰めた。 そこまでやったことで、マネージャーも「今回は毛色が違う」と本気で受け止めた。 最終的に全員、完遂まで行きました。 非エンジニア60名の約9割が、自力で「デプロイ」を経験した いけとも:完遂するとなると、支援の仕組みも必要ですよね。 土屋:知識のあるメンバーが部門内でミニレクチャーをしたり、個別にサポートするケースもありました。最後の1週間はZoomで集合レクチャーをやりました。 事前準備して参加さえすれば、1時間半から2時間の間にセットアップからデプロイまでいけるパッケージを用意したんです。 非エンジニアの人たちはここでかなり伸びましたね。 いけとも:最終的に、非エンジニアの完遂率は。 土屋:非エンジニア約60名の9割程度が、デプロイまで到達しました。 コードを書いたこともない、デプロイなんて当然したことがない人たちがです。 いけとも:「デプロイなんてできて当たり前」というのは、エンジニア感覚すぎますよね。 土屋:ITmediaに僕のブログが取り上げられた時、Xに「デプロイなんて当たり前だろ」みたいなコメントがついたんですよ。 いや、一般の非エンジニアにとって、自分のサービスがサーバーにアップロードされてURLを叩いたら動くって、概念として存在しないんです。 そこを1回でも自分の手で経験するのと、しないのとでは、見えている世界の解像度が全然違う。 ツールはClaude Codeのチームプラン、環境はVercel+Supabase いけとも:ツール構成はClaude Codeのチームプランですよね。 土屋:基本的にチームプランです。 ただし150名以上はエンタープライズプランに移行する必要があるので、メインの部門はチームプランで運用して、それ以外の部門や、今回の号令より前にClaude Codeを使っていたメンバーは個別のクレジットカード決済で対応しました。 いけとも:デプロイ環境は。 土屋:VercelとSupabaseの無料枠の中でまずやろう、という設計です。 この2つのCLIさえ入れてしまえば、あとはClaude Codeだけで夜中にアプリがデプロイできる。 相性が抜群にいいんですよ。 打ち上げ花火で終わらせない。4月からは「業務自動化」フェーズ いけとも:3月の号令は「打ち上げ花火」的な側面がありますよね。 4月以降、どう展開しているんですか。 土屋:打ち上げ花火で終わってはいけないので、4月以降は「自分たちの業務プロセスの自動化」に主題を移しています。 うちには評価制度に「AIの勝ちパターン」という項目があるので、そこと紐づけて、業務プロセスをAIエージェントで自動化することに取り組んでもらっている。 いけとも:実際、3月以降の社内のClaude Code利用率はどうなっていますか。 土屋:毎日使っているかは人それぞれですが、ほとんどが使っている状態です。 3月時点では号令に含まなかった管理部、バックオフィス、いわゆる人事や広報にも、4月から「必ずやる」という大号令が出ています。 いけとも:事業部だけでなく、全社に完全に広げているんですね。 土屋:今年はチャットアプリからエージェントアプリへ、早く移行する年だと思っているんです。 GeminiやChatGPTのウェブ版から、自分のパソコンに入ってくるClaude CodeやCodexのような環境へ。 同じAIモデルでも体験が全く違う。 これを全員に体感してもらわないと、この時代の前線にいられない。 経営会議の一部を丸ごと「AI進捗確認」に充てる いけとも:全社で動き出すと、各部署が似たようなものを作ってしまう「車輪の再発明」が起きませんか。 土屋:起きるんですよ。下手すると、別々の部署で同じものを作っている可能性がある。 だから経営サイドで全部取りまとめる仕組みを入れた。 マネージャーやGMから情報を吸い上げて、隔週の経営会議の一部をAIによる業務改善の進捗確認に丸ごと充てています。 いけとも:会議体で、仕組みとして動かしている。 土屋:各部署のワークフローを構造化して、何にどれぐらい時間がかかっていて、AIでどれぐらい短縮できるのか。 別部署と重複していないか。 議事録は全部自動で展開して、全社に投げる。 これを今、回し始めたところです。 クライアントワークも「ハーネスごと」納品する方向へ いけとも:この動きは、クライアントワークにもつながっていくんですよね。 土屋:はい。プロジェクトの中で我々が作った「ハーネス」、つまりAIエージェントが機能するための再現性の元になるものを、簡単にインストールできる形にして、プロジェクト終了後に顧客に渡す。 これは元々のグッドパッチのスタイルです。 今まではナレッジや資料を渡していたけれど、これからはAI上のハーネスそのものを渡せるようになる。 いけとも:アウトプットがデザインやプロダクトだけじゃなく、「エージェントの使い方・業務自体」になっていく。 土屋:2025年10月に子会社化したAIデザインツール「Layermate」を、我々のナレッジと顧客のナレッジを合わせた再現性のプロダクトにして、月額で使ってもらいながら渡していく、という構想もあります。 「今の2026年は、スマホ普及4%だった2010年と同じ感覚」 いけとも:海外のコンサルだとAIでジュニア層を減らす動きも出ていますが、グッドパッチ280名の体制はどう変えていくんですか。 土屋:グループ連結で約280名という規模感は、海外のように「全員レイオフしなきゃいけない」ような規模ではないと思っているんです。 大きすぎず、少なすぎない、前向きな人数感です。 ただ、このまま何も変化しなければ、仕事がなくなって人を削らなきゃいけない可能性はある。 これはデザイン・エンジニアリング会社、全部そうですよね。 いけとも:だから前線にいる、と。 土屋:社会の変わり目では、必ず新しいニーズが生まれる。スマホの時もそうでした。 2010年、日本の携帯電話ユーザーのうちスマートフォンを持っていた人はわずか4%前後。 2011年に僕が起業して、直後にGunosyを支援したところから、10年でスマホがほぼ全員の手にわたった。 あの2010〜2011年のタイミングが、今の2026年だと感覚的に思っているんです。 いけとも:創業期の事例をお金を取らずに支援したのって、Gunosyとマネーフォワードでしたよね。 土屋:両方ともフィーはゼロです。 でも、あの2社がヒットしたおかげでグッドパッチは跳ねた。 しかも奇しくも、当時のGunosy社長だった福島さんが、いまLayerXを率いる福島良典さん。 AIエージェント時代に、また同じような領域で再会している。 いけとも:ちょうど円環が閉じた感覚ですね。 AI時代に活躍する個人の条件は「自分のストーリー」 いけとも:視聴者も気になっていると思うんですが、AI時代に活躍する個人の条件を挙げるとすれば。 土屋:自分自身の文脈、自分のストーリーをちゃんと持っていること。 これはすごく重要です。 AIでそれっぽいものが「ポン出し」でできる時代だからこそ、情報量もプロダクト量もものすごく増える。 その中で、人が共感して「選ぶ」ものが作れるかどうかが勝負になる。 いけとも:AIが作った、というだけでは選ばれにくい。 土屋:結局、「どういう背景を持った人が作ったのか」が重要になる。 自分だけのストーリーと文脈を持っていることが、AI時代の個の価値の源泉です。 いけとも:もう一つは。 土屋:トライアンドエラーを繰り返すこと。 好奇心と探究心がないと、プロダクトのブラッシュアップができない。 上から言われてポン出しで作った人と、自分で磨き込んだ人では差が出るんですよ。 「もっと良くしたい」「このぐらいで満足できない」という探究心があるかどうか。 いけとも:歴史は代替できない、というのもありますよね。 土屋:グッドパッチも15年積み上げてきた。 サンフランシスコから帰ってきて創業して、Gunosyやマネーフォワードを支援して、その後組織崩壊を経験して、そこから復活して上場した。 この歴史とストーリーは、絶対に代替できない。 AI時代だからこそ、長くやってきたことの価値がある。 企業がやるべきは「トップ自身が、最初に触ること」 いけとも:企業向けには、どんなメッセージを。 土屋:まず、トップ、上長がこのAIエージェント時代のツールを一番最初に理解する。 これが絶対です。 「UX」の時もそうでしたが、トップが理解しないと組織には絶対に浸透しない。 現場の人が頑張っても限界がある。 いけとも:Copilotを配って終わり、みたいな会社も多いですよね。 土屋:それだけでは足りない。 トップが自分で触って、今のAIエージェントが何者なのか、どうしたら成果につながるのかを体感する。 ここを飛ばすと、どれだけツールを入れても前に進まない。 上場企業の社長が、コードを書きながら社内を動かす時代 土屋氏の「やばい、終わったな」から始まった2ヶ月は、祝日1日の気づきから、社員約200名のデプロイ完遂、そしてクライアントワークの再設計にまで広がった。 「前線にいないとまずい」という感覚を、上場企業の社長が自分の手で、コードを書きながら社内に伝播させている。 この熱量こそ、AIエージェント時代の企業変革に必要な温度なのかもしれない。 詳細はYouTube(Claude Code全社導入の裏側!上場デザイン会社Goodpatchの土屋社長に直撃インタビュー)でも深堀り
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「年額300万円払っていたSaaSが、朝からClaude Codeに向かっただけで、1日で完成してしまった」。 上場デザイン会社グッドパッチ社長の土屋尚史氏は、2026年2月11日の祝日、こう気づいた瞬間、「終わったな」と覚悟した。 そこから社員約200名へClaude Codeを使ったアプリケーションを制作する指示を出すことを即決。(この詳細は土屋さんのX記事をご参照) 繁忙期の3月、トップダウンの号令一つで、コーディング経験のない約60名の非エンジニアも含め「自作アプリのデプロイ」を完遂した。 デザイン会社が見せた、上場企業のAIエージェント突入劇を聞いた。 詳細はYouTube(Claude Code全社導入の裏側!上場デザイン会社Goodpatchの土屋社長に直撃インタビュー)でも深堀り きっかけは「雨の祝日、1日だけ空いた朝」だった いけとも:グッドパッチさんは、土屋さんが「社長として号令をかけることはあまりない」とおっしゃっていた会社ですよね。 それが今回、社員にClaude Codeを配って、「一人一つアプリを作ってデプロイしろ」とトップダウンでやらせた。 まず、なぜそこまでやろうと思ったのか。 土屋:AIは数年間、社内で一番大きなトピックではあったんです。 最初はChatGPTを触るところから始まって、去年の夏はバイブコーディングの勉強会もやりました。 その時に自分でClaude Codeを触ってアプリを作ろうとしたんですけど、1日ではデプロイまでいかなかった。 「非エンジニアにはまだ早いな」と、当時は感じたんですよね。 いけとも:それが今年、何かが変わった。 土屋:決定打は、2026年2月11日の建国記念の日でした。 雨で予定が流れて、1日丸々空いたんですよ。朝一でClaude Codeを開いて、社内で年額300万円払っていたあるSaaSプロダクトを、「自分で作れるか」試してみた。 いけとも:年額300万円のSaaSを、ですか。 土屋:それが、1日で完成してしまったんです。 しかも、遜色ないぐらいのクオリティで。 「ナイス・トゥ・ハブ」レベルじゃなく、実際に今もグッドパッチの中で毎日使われている。 いけとも:衝撃だったわけですね。 土屋:正直、「終わったな」と思いました。 それ以降、僕自身が本当に取り憑かれたように毎日Claude Codeを触って、2ヶ月でもう40本ぐらいアプリを作っていますね。 自分用のパーソナルAIエージェントも組んで、仕事をどんどん自動化しています。 インターネットとスマホに次ぐ、第3の「変わり目」 いけとも:40本はすごい。個人ユースで突き抜けた結果、会社への号令になった。 土屋:僕らが生きてきた中で、インターネットの登場とスマートフォンの登場があった。 その次に来るのが、間違いなくこれだと思ったんです。 自分たちの仕事にも直結してくる変化なので、「全員にこの感覚を味わわせないと、時代に取り残される」と。 いけとも:危機感がセットだったんですね。 土屋:「Claude Code、楽しいぞ」と最初は言ったんですけど、同時にかなりの危機感もあった。 しかもClaude Codeって、非エンジニアにとっては始めるまでのハードルが本当に高いんですよ。 だから、トップダウンでやらせないと一生やらない人が出る。これはまずいと。 いけとも:それで3月頭の全社会議で、「全員1アプリをデプロイまでやれ」と宣言した。 土屋:そうです。「ウェブサイトを作ってみました」「プロトタイプを作ってみました」ではなく、データベースも絡めて、ちゃんと動くウェブアプリケーションとしてデプロイする。 それを事業部門のメンバー全員にやってくれ、と。 号令前、Claude Codeを触っていた社員は「1割未満」 いけとも:グッドパッチさんはデザイナーもエンジニアもいる、ITリテラシーの高い会社ですよね。 それでも全員となると、自発的にはなかなか至らなかった。 土屋:各々の危機感って、まちまちなんですよ。 Claude Codeを触っているメンバーもいたけれど、3月頭の時点では全体の1割もいなかったと思います。 いけとも:200人を動かすのって、コストもかかるじゃないですか。 具体的にはどんなルール設計をしたんですか。 土屋:顧客情報とかセキュリティはセンシティブなので、そこに触れるようなAPI利用は一旦控えてもらった。 個人が自分の課題を解決するために作りたいアプリケーションに限定しましたね。 いけとも:ログインまわりは。 土屋:うちはOktaを入れているので、Googleの認証を経由する形でログインさせる。 入り口の段階では、かなり縛りました。 そのうえでセキュリティのルールを社内で作って、周知した上で進めています。 いけとも:ルール自体は、エンジニアや専門チームと作った感じですか。 土屋:AIトランスフォーメーション、いわゆるAXのオーナーチームが社内にあって、そこが主体になってルール設計もアカウント管理も進めました。 残り1週間で100人未提出。社長の「本気の詰め」が始まった いけとも:3月って、我々の業界は繁忙期ですよね。 動きにくい人も出るのでは。 土屋:そこはメンバーに申し訳ないと思っていながらやりましたね。ただ、やってしまえば時間はかからないんですよ。やるまでのハードルが高いだけで。 うちのような新しいものに抵抗がない組織でも、「ラガード」は出るんですよ、残念ながら。 いけとも:内発的動機が高い層が最初に動く。 土屋:そうですね。好奇心、探究心が高い人たちは、3月前半にはもう終わらせているんです。 動きの速さで、かなり可視化されましたね。 いけとも:逆に、それ以外の層は。 土屋:半分以上はなかなかやらない。 当然、プロジェクトの事情もあるので全員がやる気ないわけではないですが、残り1週間になった時点で100人以上が未完了でした。 対象部門の社員の半分以上ですね。 いけとも:半分。そこから、どう動かしたんですか。 土屋:ここからが、過去のグッドパッチになかったレベルのマイクロマネジメントです。 今回Claude Codeを使って何を作ったか、どうだったかをドキュメントツール「esa」に投稿してもらうことにしていたんですが、そのesaの投稿をClaude Codeで毎日9時に自動で取得。 カテゴリ分類して、裏側では「書いた人・書いていない人」を自動チェックしていたんです。 いけとも:仕組み自体も、Claude Codeで土屋さんが作った。 土屋:全部そうです。 で、まずは僕が日々つぶやいている社内Slackの「#times_ceo」チャンネルで「書いていない人、俺全部分かっているからね」とジャブを打って。 残り1週間になってからは、Slackのマネージャーチャンネルに毎日「この人とこの人が未提出です」と名前を出し始めた。 しかも、その中に管理職がいる。 いけとも:メンバーにやれと言ってマネージャーがやらないのは、許されませんよね。 土屋:まさにそれを突きつけました。 「過去こんなマイクロマネジメントはやったことない」というくらい本気で詰めた。 そこまでやったことで、マネージャーも「今回は毛色が違う」と本気で受け止めた。 最終的に全員、完遂まで行きました。 非エンジニア60名の約9割が、自力で「デプロイ」を経験した いけとも:完遂するとなると、支援の仕組みも必要ですよね。 土屋:知識のあるメンバーが部門内でミニレクチャーをしたり、個別にサポートするケースもありました。最後の1週間はZoomで集合レクチャーをやりました。 事前準備して参加さえすれば、1時間半から2時間の間にセットアップからデプロイまでいけるパッケージを用意したんです。 非エンジニアの人たちはここでかなり伸びましたね。 いけとも:最終的に、非エンジニアの完遂率は。 土屋:非エンジニア約60名の9割程度が、デプロイまで到達しました。 コードを書いたこともない、デプロイなんて当然したことがない人たちがです。 いけとも:「デプロイなんてできて当たり前」というのは、エンジニア感覚すぎますよね。 土屋:ITmediaに僕のブログが取り上げられた時、Xに「デプロイなんて当たり前だろ」みたいなコメントがついたんですよ。 いや、一般の非エンジニアにとって、自分のサービスがサーバーにアップロードされてURLを叩いたら動くって、概念として存在しないんです。 そこを1回でも自分の手で経験するのと、しないのとでは、見えている世界の解像度が全然違う。 ツールはClaude Codeのチームプラン、環境はVercel+Supabase いけとも:ツール構成はClaude Codeのチームプランですよね。 土屋:基本的にチームプランです。 ただし150名以上はエンタープライズプランに移行する必要があるので、メインの部門はチームプランで運用して、それ以外の部門や、今回の号令より前にClaude Codeを使っていたメンバーは個別のクレジットカード決済で対応しました。 いけとも:デプロイ環境は。 土屋:VercelとSupabaseの無料枠の中でまずやろう、という設計です。 この2つのCLIさえ入れてしまえば、あとはClaude Codeだけで夜中にアプリがデプロイできる。 相性が抜群にいいんですよ。 打ち上げ花火で終わらせない。4月からは「業務自動化」フェーズ いけとも:3月の号令は「打ち上げ花火」的な側面がありますよね。 4月以降、どう展開しているんですか。 土屋:打ち上げ花火で終わってはいけないので、4月以降は「自分たちの業務プロセスの自動化」に主題を移しています。 うちには評価制度に「AIの勝ちパターン」という項目があるので、そこと紐づけて、業務プロセスをAIエージェントで自動化することに取り組んでもらっている。 いけとも:実際、3月以降の社内のClaude Code利用率はどうなっていますか。 土屋:毎日使っているかは人それぞれですが、ほとんどが使っている状態です。 3月時点では号令に含まなかった管理部、バックオフィス、いわゆる人事や広報にも、4月から「必ずやる」という大号令が出ています。 いけとも:事業部だけでなく、全社に完全に広げているんですね。 土屋:今年はチャットアプリからエージェントアプリへ、早く移行する年だと思っているんです。 GeminiやChatGPTのウェブ版から、自分のパソコンに入ってくるClaude CodeやCodexのような環境へ。 同じAIモデルでも体験が全く違う。 これを全員に体感してもらわないと、この時代の前線にいられない。 経営会議の一部を丸ごと「AI進捗確認」に充てる いけとも:全社で動き出すと、各部署が似たようなものを作ってしまう「車輪の再発明」が起きませんか。 土屋:起きるんですよ。下手すると、別々の部署で同じものを作っている可能性がある。 だから経営サイドで全部取りまとめる仕組みを入れた。 マネージャーやGMから情報を吸い上げて、隔週の経営会議の一部をAIによる業務改善の進捗確認に丸ごと充てています。 いけとも:会議体で、仕組みとして動かしている。 土屋:各部署のワークフローを構造化して、何にどれぐらい時間がかかっていて、AIでどれぐらい短縮できるのか。 別部署と重複していないか。 議事録は全部自動で展開して、全社に投げる。 これを今、回し始めたところです。 クライアントワークも「ハーネスごと」納品する方向へ いけとも:この動きは、クライアントワークにもつながっていくんですよね。 土屋:はい。プロジェクトの中で我々が作った「ハーネス」、つまりAIエージェントが機能するための再現性の元になるものを、簡単にインストールできる形にして、プロジェクト終了後に顧客に渡す。 これは元々のグッドパッチのスタイルです。 今まではナレッジや資料を渡していたけれど、これからはAI上のハーネスそのものを渡せるようになる。 いけとも:アウトプットがデザインやプロダクトだけじゃなく、「エージェントの使い方・業務自体」になっていく。 土屋:2025年10月に子会社化したAIデザインツール「Layermate」を、我々のナレッジと顧客のナレッジを合わせた再現性のプロダクトにして、月額で使ってもらいながら渡していく、という構想もあります。 「今の2026年は、スマホ普及4%だった2010年と同じ感覚」 いけとも:海外のコンサルだとAIでジュニア層を減らす動きも出ていますが、グッドパッチ280名の体制はどう変えていくんですか。 土屋:グループ連結で約280名という規模感は、海外のように「全員レイオフしなきゃいけない」ような規模ではないと思っているんです。 大きすぎず、少なすぎない、前向きな人数感です。 ただ、このまま何も変化しなければ、仕事がなくなって人を削らなきゃいけない可能性はある。 これはデザイン・エンジニアリング会社、全部そうですよね。 いけとも:だから前線にいる、と。 土屋:社会の変わり目では、必ず新しいニーズが生まれる。スマホの時もそうでした。 2010年、日本の携帯電話ユーザーのうちスマートフォンを持っていた人はわずか4%前後。 2011年に僕が起業して、直後にGunosyを支援したところから、10年でスマホがほぼ全員の手にわたった。 あの2010〜2011年のタイミングが、今の2026年だと感覚的に思っているんです。 いけとも:創業期の事例をお金を取らずに支援したのって、Gunosyとマネーフォワードでしたよね。 土屋:両方ともフィーはゼロです。 でも、あの2社がヒットしたおかげでグッドパッチは跳ねた。 しかも奇しくも、当時のGunosy社長だった福島さんが、いまLayerXを率いる福島良典さん。 AIエージェント時代に、また同じような領域で再会している。 いけとも:ちょうど円環が閉じた感覚ですね。 AI時代に活躍する個人の条件は「自分のストーリー」 いけとも:視聴者も気になっていると思うんですが、AI時代に活躍する個人の条件を挙げるとすれば。 土屋:自分自身の文脈、自分のストーリーをちゃんと持っていること。 これはすごく重要です。 AIでそれっぽいものが「ポン出し」でできる時代だからこそ、情報量もプロダクト量もものすごく増える。 その中で、人が共感して「選ぶ」ものが作れるかどうかが勝負になる。 いけとも:AIが作った、というだけでは選ばれにくい。 土屋:結局、「どういう背景を持った人が作ったのか」が重要になる。 自分だけのストーリーと文脈を持っていることが、AI時代の個の価値の源泉です。 いけとも:もう一つは。 土屋:トライアンドエラーを繰り返すこと。 好奇心と探究心がないと、プロダクトのブラッシュアップができない。 上から言われてポン出しで作った人と、自分で磨き込んだ人では差が出るんですよ。 「もっと良くしたい」「このぐらいで満足できない」という探究心があるかどうか。 いけとも:歴史は代替できない、というのもありますよね。 土屋:グッドパッチも15年積み上げてきた。 サンフランシスコから帰ってきて創業して、Gunosyやマネーフォワードを支援して、その後組織崩壊を経験して、そこから復活して上場した。 この歴史とストーリーは、絶対に代替できない。 AI時代だからこそ、長くやってきたことの価値がある。 企業がやるべきは「トップ自身が、最初に触ること」 いけとも:企業向けには、どんなメッセージを。 土屋:まず、トップ、上長がこのAIエージェント時代のツールを一番最初に理解する。 これが絶対です。 「UX」の時もそうでしたが、トップが理解しないと組織には絶対に浸透しない。 現場の人が頑張っても限界がある。 いけとも:Copilotを配って終わり、みたいな会社も多いですよね。 土屋:それだけでは足りない。 トップが自分で触って、今のAIエージェントが何者なのか、どうしたら成果につながるのかを体感する。 ここを飛ばすと、どれだけツールを入れても前に進まない。 上場企業の社長が、コードを書きながら社内を動かす時代 土屋氏の「やばい、終わったな」から始まった2ヶ月は、祝日1日の気づきから、社員約200名のデプロイ完遂、そしてクライアントワークの再設計にまで広がった。 「前線にいないとまずい」という感覚を、上場企業の社長が自分の手で、コードを書きながら社内に伝播させている。 この熱量こそ、AIエージェント時代の企業変革に必要な温度なのかもしれない。 詳細はYouTube(Claude 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